月の記録 第5話


「ま、マリアンヌ様、こ、これ以上は・・・」
「だらしがないわねジェレミア。この程度でダウンするなんて、もう年なんじゃないかしら?」

僅かに息を切らしてはいるが、まだまだ余裕といった表情でマリアンヌは言った。
すでに引退したとはいえ、元ナイトオブシックス。
甘く見ていたつもりなど無いがまさかここまでとは。
ジェレミアはどうにか体を起こし、ふらつく身体で立ち上がった。

「スザク君はまだまだいけそうね。いいわね、若いって」
「恐縮です」

肩で息をしながら、それでもまだ余裕の見えるスザクはそう返した。

「いい、スザク君。今ここにいる私が女だということも、皇妃だということも忘れなさい。手加減も無しよ。余計なことに意識がいっているから、そんなに疲れるのよ」

バレていたのかと、スザクは思わず眉を寄せた。
手加減されていたとわかれば怒るのは当然だ。
しかし皇妃に刃を向けるなど本来あってはならないことだ。
万が一ということがある以上、細心の注意を・・・

「だから、それをやめなさいと言っているのよ!」
「うわっ!」

マリアンは容赦なく剣を振り下ろした。
子供を二人も産んだとは思えないほどの・・・しかもその一人が自分と同い年とは到底思えないほどの身体能力。自分の母親を想像し、無理無理、普通は無理だろ、息子と同じ年の騎士相手にこれだけ動けるなんて!と、軽くパニックを起こしながらも、切っ先をさけ、どうにか距離を取ることに成功した。

「ほら、ジェレミア!油断したら駄目でしょう!」
「は、はい、マリアンヌ様っっ!!」

マリアンヌとの手合わせなどそうあることではない。
ジェレミアは死にものぐるいで、マリアンヌの剣を受けた。
力はやはり男に劣るが、速い。
まるで舞うように闘うマリアンヌはとても強く美しかった。
皇帝の108人いる皇妃の中で最も美しいとさえ言われているマリアンヌは、他の皇妃からの妬みもすごく、その出自もあり常に目の敵にされているのだが、戦場にも身をおいていた元ナイトオブラウンズ相手に、籠の鳥が勝てるはずもない。遠くでピイピイさえずって、影で無力な子供をつついて泣かせるのが関の山だ。
とはいえ、彼女に勝てないのは后妃だけではなく現役の騎士たちも同じで、マリアンヌと対等に戦えるのは最強の騎士、ナイトオブワンだけだと言われている。

「ぐあっ!」

再び、ジェレミアが地面に倒れ伏した。
マリアンヌとスザクは向かい合い、互いに間合いを図っていた。
息は弾んでいるが、まだまだ余裕が有ることは見てわかっている。

「行くわよ、スザク君!!私に勝てたら、貴方に協力してあげるわ!!」
「・・!?はいっ、受けて立ちます!」

相手が女性で、皇妃で、自分の母と変わらない年代なのだという事は一瞬で消え去り、スザクは真剣な表情で剣を構えた。

「なによ、スザク君・・・あなた、二刀流だったの?」

エサをちらつかせた途端本気を出してきたスザクに喜んだのはつかの間。倒れていたジェレミアの傍を通った隙に、スザクはジェレミアの剣も手にしていた。二本の剣を持ったスザクは強く、今までどれほど手を抜いていたのか、二人の激しい攻防を傍観するしか無いジェレミアでさえわかった。
マリアンヌが押していたのは最初だけで、その後は全てスザクのペースだった。
底知れぬ体力を持つ二人による全力の打ち合いは1時間を軽く超えたが、やがて決着が着いた。いくら現役を退いたと言っても、まだまだ他のナイトオブラウンズに負けないマリアンヌだったが、スザクには完敗だった。
体力が尽き、全身で息をしながらマリアンヌはその場に座り込んだ。これほどの人材を眠らせていたなんて・・・なんて勿体無い。

「・・・そういえば、ランスロットも2本だったわね」
「はい。やはり戦闘では手数が多いほうが楽ですから」
「・・・そんな理由なの?」
「・・・?はい」

手数が多いほうが楽だから二刀流のほうが強い。
そんな理由で2本使う人など始めて聞いた。
冗談ではなく本人は、本気で言っているのは表情でわかる。

「まあいいわ。あなた達、少しはマシな顔になったわね。さっきはまるで幽霊のような顔をしていたわよ」
「も、申し訳ありませんでした」

ジェレミアは即座に立ち上がるとビシリと騎士の礼をとった。

「それで、さっきあの子に呼ばれていたのは、ユーフェミアの件でしょ?」
「はい」

スザクはマリアンヌから目を逸らすこと無く答えた。

「貴方を解任すると言ったのね」
「いえ、まだです」
「あら?そうなの?てっきり・・・」
「シュナイゼル殿下からお電話が入りまして」
「ああ、あのつまらない男からね・・・」

マリアンヌ皇妃はシュナイゼルをあまり好きではなかった。
特にルルーシュが絡んだ時のシュナイゼルが嫌いらしく、以前本人を目の前にして「あなた、気持ち悪いわよ」とまで言ってのけるほどだった。たしかにシュナイゼルは、ルルーシュのことが好きすぎてどこか壊れた感じになっていたから無理も無い。ルルーシュもシスコンだが、シュナイゼルはそれを遥かに上回る・・・変態だった。
ブラコンの枠は間違いなく越えかけている。今はもう超えているかもしれない。昔アリエスで問題を起こして以来出入り禁止になっているから、公式な場以外で会うことは無くなっていた。

「まだなら好都合。スザク君、貴方はしばらくルルーシュから離れなさい」

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